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ベトナムEC市場の成長と日本企業進出のポイント

更新日:2025.02.20

公開日:2025.02.20

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ベトナムEC市場は急成長中

ベトナムのEC(電子商取引)市場は東南アジアでも屈指の成長率を示しています。2023年の市場規模は約2,300億ドル(約500兆ドン)に達し、前年1,720億ドルから大幅な伸びを記録しました。2025年には約3,900億ドル規模に達するとの予測もあります。主要なECプラットフォームはShopeeLazadaといった地域大手に加え、ベトナム発のTikiが挙げられます。近年はTikTok Shopが急速に台頭し、2023年第2四半期の市場シェアでLazadaを抜いて2位に浮上しました​。さらにローカルのSendoなども含めた上位5社で、ベトナムB2C EC市場全体の約半分の売上を占めています​。このようにプラットフォーム間の競争も活発で、市場全体が活況を呈しています。

成長を支える要因

これほどまでEC市場が成長している背景には、いくつかの要因があります。まずインターネット環境の普及が挙げられます。2023年時点でベトナムのインターネット普及率は約72%に達し、オンライン購入の80%以上がスマートフォン経由で行われるなど、モバイル中心の消費文化が根付いています。都市部だけでなく地方にも通信インフラが整備され、若い世代を中心にオンラインショッピングが日常化しました。実際、25歳以下の若年層が主要な消費者層となっており、新しいテクノロジーやSNSを駆使した購買行動が市場拡大の原動力になっています。加えて、政府によるデジタル経済推進策も後押しとなり、電子決済や物流インフラの整備が進んだことも大きいです。かつては銀行口座を持たない人が多く代金引換(COD)が一般的でしたが、近年はスマホの普及に伴ってモバイル決済や電子ウォレット(MomoやZaloPayなど)の利用も増えており、政府のキャッシュレス化政策もこの流れを支えています​。こうしたインフラ・消費者行動・政策面での追い風が相まって、ベトナムEC市場は経済成長率(年5%超)を上回る勢いで拡大を続けているのです。

日本企業の進出事例:成功と失敗

日本企業の進出事例:成功と失敗

事例1: 中古ブランド品を東南アジアへ – デファクトスタンダード社

中古ブランド品の買取・販売を手がけるデファクトスタンダード社(ブランド名「ブランディア」等)は、東南アジア最大級のECモールShopeeの越境ECを活用し成功した企業です。自社で買い取った中古のブランドバッグや時計等を、Shopeeを通じてベトナムを含む東南アジア各国や台湾の消費者に販売しています。

  • 戦略・マーケティング
    店準備にあたっては、越境EC支援サービスの「BeeCruise」を利用し、現地向けの店舗開設作業やカスタマーサポート、国際配送を代行してもらいました​。これにより、自社は少ない手間で越境ECを開始し、商品販売そのものにリソースを集中できています。さらにShopee上ではキャンペーン(セール)を積極活用。ユーザーの反応を見ながらクーポン値引きを高めに設定するなどの施策を行った結果、PV(ページ閲覧数)やユニークユーザー数が施策前の2〜3倍に伸長し、大きく売上を伸ばすことに成功しました。
  • ポイント
    現地ECプラットフォームを最大限に活用しつつ、専門パートナーに物流・運営を任せた点が効率的です。また、大型セール時にクーポン配布などで積極集客したことが功を奏しています​。公式ショップを開設してブランドイメージを統一し、SNSと連動したクーポン配布でフォロワーを増やしつつ売上拡大に繋げたことも長期的な成功要因です​。フォロワーが増えれば、新商品の告知を直接届けられるため、リピーター育成による顧客基盤の構築にも寄与しました​。

事例2: コスメ・日用品のヒット例 – 日本製品の品質で信頼獲得

ベトナムのECで特に人気を博している日本の中小企業の商品ジャンルに化粧品ベビー用品があります。例えば、日本のある化粧品ブランドの日焼け止めは、高品質な成分による効果の高さがベトナム人女性に支持され、オンラインでも人気商品となっています。事実、資生堂の日焼け止め「ANESSA(アネッサ)」はベトナムで有名で、使っている人も多いほど浸透しています​。強い紫外線から肌を守りたいという現地ニーズに合致し、日本ブランドへの信頼感も追い風となりました。

また、日本の紙おむつや粉ミルクといったベビー用品もECで売れ筋です。日本製ベビー用品は「安全性が高い」と評価されており、赤ちゃんが使うものには安心できるブランドを選びたいという現地の親御さんたちに支持されています。例えば、ある日本の中小メーカーがおむつをベトナム市場向けに販売したケースでは、「肌触りが良く安心できる」と口コミで評判が広がり、Shopee等で売上を伸ばしました。このように日本製品の強み(高品質・安全)を前面に打ち出し、現地ニーズと合致した商品はECでも好調です​。

  • 活用プラットフォーム
    ShopeeやLazadaなど主要マーケットプレイスで公式ストアを開設し販売。加えてFacebookやInstagram上でも商品紹介を行い、口コミやレビュー獲得に努めています。最近では若年層への訴求のためTikTok Shopにも進出し、ライブ配信で商品デモを行う取り組みも見られます(TikTokは若者を中心にユーザーが急増し、EC機能を使う人が非常に多いです)。
  • マーケティング手法
    SNS広告とインフルエンサー(KOL)活用が鍵になりました。FacebookやTikTokといったSNS上の広告を投入し、商品ページへ誘導。また、美容インフルエンサーに依頼して使用感レビュー動画を拡散することで信頼性と認知度を高めています​。実際、ベトナムではSNSで人気ユーザー(KOL/KOC)による紹介の影響力が大きく、あるフランス製日焼け止めがインフルエンサー経由で急成長した例もあります。日本企業もこうした手法を取り入れ、TikTok上でライブコマース配信を実施するなど、リアルタイムで視聴者の質問に答えながら購入を促す工夫をしています​。中小企業にとって大きな広告予算を割くのは難しい場合も、SNSでのバイラル拡散現地インフルエンサーとの協業は比較的低コストで効率的なマーケティング手段となっています。

ベトナムに進出する上で考慮すべきこと

ベトナムに進出する上で考慮すべきこと

ベトナムのEC市場に日本企業が進出する際には、以下のような点に考慮すべきです。

  • 競争の激化と差別化の必要性
    前述の通り主要プラットフォーム同士の競争が激しく、市場には多くの企業が参入しています。その結果、クーポン乱発など熾烈な価格競争が常態化しており、後発の企業がシェアを奪うのは容易ではありません。実際、競争環境の厳しさから多くのマーケットプレイスが撤退・閉鎖に追い込まれ、2023年には約10万5千社ものEC事業者が市場から姿を消したとの報告もあります。競合に埋もれないためには明確な差別化戦略が求められます。
  • 物流インフラと配送の課題
    急速に市場が拡大する一方で、物流(ロジスティクス)網は発展途上な部分もあります。特にラストマイル(最終配送)の整備が十分でなく、配送コストの高さが課題です。ラストマイル配送は物流コスト全体の約28%を占めるとも言われ​、商品価格に比べて送料が割高になると消費者が購入を躊躇する要因になっています​。都市部では大手プラットフォーム各社が自前の配送網や即日配送サービス(例:Tikiの都市即日配送は90%以上カバー)で対応していますが、地方への配送網や在庫管理の安定性など依然改善の余地があります。日本企業が自社で物流を構築するのは困難なため、現地物流パートナーの活用主要マーケットプレイスの配送網を借りる戦略が不可欠でしょう。
  • 決済手段のギャップ
    ベトナムでは依然として現金決済の文化が根強く、オンライン購入でも商品受け取り時に支払う代金引換(COD)が広く利用されています​。クレジットカード保有率が低く銀行口座を持たない層も多いため、日本のようにカード決済が当たり前ではありません。その一方で若年層を中心に電子ウォレットやQRコード決済の利用も急増しており、決済手段が多様化しています。日本企業は進出に際して、CODを含む複数の決済オプションを用意し、現地の消費習慣に合わせる必要があります。
  • マーケティング手法の違い
    ベトナムの消費者はSNSやインフルエンサーの情報に影響を受けやすくオンラインマーケティングの巧拙が売上を大きく左右します。FacebookやTikTokなどでの広告展開や、KOL(Key Opinion Leader=インフルエンサー)を起用したプロモーションはもはや必須と言えるでしょう。日本企業にとって、自社サイトや既存のブランド認知だけに頼るのではなく、現地のデジタルチャネルを駆使した宣伝戦略を取ることが求められます。また、急速にトレンドが移り変わる市場環境に合わせて柔軟にマーケティング手法を更新していく姿勢も重要です。数年前の成功パターンがすぐに通用しなくなるケースもあるため、常に最新の消費動向をキャッチアップする必要があります。
  • 模倣品・低品質品への対処
    急成長する市場ゆえに偽物や粗悪品も出回りやすく、消費者の信頼を損ねる要因となっています。プラットフォーム上でのレビュー炎上やブランド毀損を防ぐためにも、日本企業は品質保証や正規品であることの証明に努める必要があります。他社によるコピー商品への対策や知的財産権の保護も課題です。裏を返せば、「日本ブランド=高品質で信頼できる」という評価を得られれば大きな武器になります。実際、現地消費者は品質やアフターサービスを重視する傾向があり、日本企業はその点でアドバンテージを発揮できる可能性があります​。

ベトナムEC市場攻略のTIPS

以上の課題を踏まえ、日本企業がベトナムのEC市場で成功するためのポイントを整理します。

  • 徹底的な市場リサーチと現地志向の戦略
    進出前に現地消費者のニーズや文化的背景を深く調査し、自社商品・サービスのローカライズ戦略を練ることが重要です。商品の特徴やメッセージは現地の言葉で端的かつ魅力的に伝える必要があります。例えばパッケージ表示や広告表現も現地スタッフの意見を取り入れて調整するといった配慮が求められます。
  • 現地企業との提携・パートナーシップ活用
    未知の市場に単独で挑むよりも、現地の知見を持つパートナーと組むことは大きなメリットになります。具体的には、現地の有力ECプラットフォームに公式ストアを出店したり、現地流通業者と提携して物流やカスタマーサポートを委託する方法が考えられます。これにより、配送網や決済システムなど既存インフラを活用できるだけでなく、消費者からの信頼も得やすくなります。たとえば東南アジア全域で展開するShopeeやLazadaに出店すれば、彼らの持つ巨大ユーザーベースや物流網を活かせます。また、現地マーケティング会社や広告代理店と連携し、消費者動向に即したプロモーションを共同で行うことも有効でしょう。
  • 多様な決済手段とユーザーフレンドリーなサービス
    ベトナムのユーザーにスムーズに購入してもらうため、決済手段は可能な限り多様化すべきです。具体的には、COD(現金払い)、国内外のクレジットカード、電子ウォレット(MomoやZaloPay等)、銀行振込やQR決済など、ユーザーの好みに応じたオプションを用意します​。決済ページや返金ポリシーも明確にし、初めて利用する顧客にも安心感を与えることが大切です。また、問い合わせ対応や商品説明で現地語を充実させる、サイト表示速度を最適化する等、ユーザーフレンドリーなサービス提供にも注力しましょう。
  • デジタルマーケティングの積極活用
    現地の消費者にリーチするにはオンラインでの露出を高めることが不可欠です。SNS広告やインフルエンサー(KOL)とのコラボを積極的に仕掛け、ブランド認知と集客力を高めましょう。FacebookやTikTokでの商品紹介動画やレビュー企画を実施したり、人気のYouTuber・ブロガーに自社商品を体験してもらうなど、ソーシャルメディア上で話題を作る戦略が有効です。特にライブコマース(ライブ配信による販売)はベトナムECで急伸している分野で、大型セール時に通常の数十倍の売上を記録する事例もあります​。日本企業もライブ配信での商品説明やセールを行ったり、現地の人気タレントと組んでライブイベントを開催するなど、新しい販促チャネルを取り入れると良いでしょう。重要なのは、現地消費者の心をつかむコンテンツ作りです。単に商品を並べるだけでなく、ストーリー性やエンターテイメント性を持たせた情報発信でファンを増やすことが成功への近道となります。

おわりに

ベトナムのEC市場

ベトナムのEC市場はその人口規模(約1億人)と若い消費者層によって、今後も魅力的な成長を遂げると期待されています。日本企業にとって大きなビジネスチャンスである一方、現地特有の課題にしっかり備えることが成功のカギとなります。入念な準備と現地への適応力を持って臨めば、ベトナムEC市場で大きな成果を上げることも十分可能でしょう。日本企業が持つ高品質な商品・サービスと、現地のニーズや文化を融合させることで、双方にメリットのあるビジネス展開が期待できます。